「イキった若者」はベトナム語で?
Trẻ trâu(チェ チャウ)の発音・使い方
公開: 2026-09-14
「「イキった若者」はベトナム語で?Trẻ trâu(チェ チャウ)の発音・使い方」はベトナム語で
Trẻ trâu
チェ チャウ —「チェ↓↗・チャウ→」。trẻ を沈めてから軽く上げ、trâu は平らに置く
若者のイキった言動をけなす俗語で、面と向かって言えば悪口です。旅行者が口にする場面はまずありません。この記事は、SNSや会話で耳にしたときに意味を取るための整理です。やわらげた言い方は sửu nhi(シウ ニー)。
「イキった若者」はベトナム語で?Trẻ trâu(チェ チャウ)の発音・使い方
ベトナムの若い人のSNSのコメント欄や、ゲームの話をしている会話で、よく出てくるのが trẻ trâu です。字面は「子ども」+「水牛」。実際には「イキっている」「幼稚で目立ちたがり」な若者をけなす俗語として使われます。日本語の「イキり坊主」「痛いガキ」に近い言葉です。
先にお伝えしておくと、これは悪口です。この記事は自分で使うためではなく、耳にしたときに「今のは誰かをけなしている」と気づくために書いています。
現地の人に伝わる発音のコツ
Wiktionary の発音表記は、北部ハノイが [t͡ɕɛ˧˩ t͡ɕəw˧˧]、南部サイゴンが [ʈɛ˨˩˦ ʈəw˧˧] です。
- trẻ — ホイ声調(下げ上げ)。いったん沈めてから軽く上げます。母音 e は日本語の「エ」より口を横に大きく開いた [ɛ] です
- trâu — ンガン声調(平ら)。上げも下げもせず、そのまま置きます。â は「ア」を短くあいまいにした音で、「チャウ」と「チョウ」の中間くらいに聞こえます
つなげると「チェ↓↗ チャウ→」。前が動いて、後ろが止まる、というリズムです。
北部(ハノイ)と南部(ホーチミン)の違い: 語彙と意味は南北共通です。違いは発音で、北部の tr は日本語の「チ」の子音に近く「チェ チャウ」と聞こえます。南部は舌先をそり上げて出すため、「ト」が混ざったような響きになります。また、南部のホイ声調は下げてから上げる幅がはっきり出ます。
trâu と trẩu は声調だけが違う
この俗語には trẩu(チャウ↓↗)という短縮形があります。trâu(平ら)と trẩu(下げ上げ)は、声調記号が違うだけで綴りは同じ。耳で聞き分けるときは、語尾が沈んでから上がれば trẩu と覚えておくと区別できます。成り立ちは後の「文化メモ」で説明します。
聞き分けたい「trẻ trâu」まわりの語 早見表
どれも人をけなす方向の言葉です。上ほどやわらかく、下ほど強くなります。
| フレーズ | 読み | 意味・強さ | 音声 |
|---|---|---|---|
| Trẻ con | チェ コン | 名詞は「子ども」。形容詞では「子どもっぽい、幼稚な」 | |
| Sửu nhi | シウ ニー | trẻ trâu を漢越語に置き換えて、やわらげた言い方 | |
| Trẻ trâu | チェ チャウ | 名詞は「イキった若者・目立ちたがり」、形容詞は「幼稚な」 | |
| Trẻ trâu quá | チェ チャウ クアー | 「幼稚すぎる、イキりすぎ」。quá は「〜すぎる」 | |
| Trẩu | チャウ | trẻ trâu の短縮形。「見せびらかしていて痛い」 | |
| Thằng trẻ trâu | タン チェ チャウ | 「あのイキったガキ」。thằng を付けると侮蔑が強まる |
表の読み方で押さえておきたいのは2点です。
名詞にも形容詞にもなる: Wiktionary は trẻ trâu に「行儀の悪い若者、目立ちたがり」(名詞)と「幼稚な、未熟な」(形容詞)の両方を載せています。「trẻ trâu な人」とも「その行動は trẻ trâu だ」とも言えます。
付く類別詞で強さが変わる: 名詞として数えるときの類別詞は đứa(ドゥア)か thằng(タン)です。thằng は男性を指す類別詞ですが、見知らぬ相手に使うと侮蔑の含みが出ます(「悪口」の記事でも扱っています)。そのため「thằng trẻ trâu」は、かなりはっきり相手を見下した言い方になります。
場面別の使い方(旅行シーン)
旅行者が trẻ trâu を口にする場面は、基本的にありません。出番があるのは「耳にしたとき」だけです。
ゲームセンターやネットカフェで: 若いグループが画面に向かって騒ぎながら「trẻ trâu!」と言い合っていたら、ゲームの中の相手をけなしている可能性が高いです。VietNamNet の記事でも、ネットカフェでたばこを吸いながらチャットで悪態をつく、仲間に絡み続ける、下手なのに態度が大きい、といった振る舞いが典型例として挙げられています。
SNSのコメント欄で: 動画の投稿者や、他のコメントに対して「trẩu」「sửu nhi」と書かれていたら、「イキってて痛い」「ガキっぽい」という反応です。trẩu は短く打てるので、書き込みでよく見かけます。
自分に向けられた気がしたとき: 言い返さないのが一番です。落ち着いた距離を保ちたいなら Đừng nói vậy.(ドゥン ノイ ヴァイ) =「そんなふうに言わないで」。会話から抜けたいなら、黙ってその場を離れれば十分です。
ミニ会話例
屋台で、隣の席の若者2人がスマホの動画を見ている場面です。
đó は「その、あの」。kệ は「放っておく、気にしない」で、nó は年下や親しい相手を指すくだけた三人称です(その場にいない人に使うと、軽く見る響きが出ます)。親しい者どうしの会話ならよくある言い方ですが、どちらも本人の前で使えばけんかになる言葉です。 うっかり自分が口にしてしまったら、ごまかさずに謝ります。
ベトナム文化メモ
なぜ「水牛」なのか
Wiktionary によると、trẻ trâu のもともとの意味は「水牛の番をする子ども」で、今ではこの意味は古い用法とされています。農村では子どもが水牛の世話を任されるのがよくある光景でした。そうした子どもたちのやんちゃで向こう見ずな印象が、今の「イキった若者」という意味につながった、と説明するベトナム語の解説記事が多くあります。
「trâu」に**「頑固で言うことを聞かない」**という意味を重ねる説明もあります。例として挙げられるのが、ことわざの đàn gảy tai trâu(ダン ガイ タイ チャウ)。字義は「水牛の耳元で琴を弾く」で、聞く気のない相手に何を言っても通じない、という意味です。日本語の「馬の耳に念仏」にあたり、中国語の「対牛弾琴」をなぞった表現と考えられています。ただし、このことわざが俗語 trẻ trâu の直接の由来だと示す資料は見つかっていません。Tuổi Trẻ 紙の2016年の記事も「どこから来て、いつからある言葉なのかは、誰も触れていない」と書いています。由来の話は「そう説明されることが多い」くらいに受け取っておくのが安全です。
trẩu と sửu nhi は「言い換え」から生まれた
trẩu は、ベトナム語の言葉遊び nói lái(ノイ ライ)から生まれました。nói lái は音節の音を入れ替える遊びで、trẻ trâu を入れ替えて trẩu tre、それをさらに短くして trẩu になった、と Wiktionary は説明しています。意味も少しずれていて、「見た目は派手だけど滑稽」という形容詞として使われます。
sửu nhi は反対に、言葉をやわらげる方向の言い換えです。十二支の「丑」(sửu)と「児」(nhi)を組み合わせた漢越語で、「水牛の子ども」をかしこまった語に置き換えたもの。trẻ trâu がきつく聞こえるので、その代わりとして広まったとされます。ただ、ベトナム語の解説記事の中には、中国語の「丑」は水牛ではなく牛を指すので、2つの語が完全に同じ意味とは言えない、と指摘するものもあります。
年齢ではなく「振る舞い」を指す言葉
「trẻ(若い)」と付いていますが、VietNamNet の記事は、trẻ trâu かどうかを決めるのは年齢ではなく振る舞いだと主張しています。10代でも謙虚なプロゲーマーがいる一方、大人でも trẻ trâu な振る舞いをする人はいる、という例も挙げられています。大人に向ければ「いい年して子どもっぽい」という、より刺さる悪口になります。
よくある質問
Q. 冗談で使ってもいい? A. 使わないほうが無難です。親しい若者どうしで軽口として言い合うことはありますが、それは相手が冗談だと分かる関係があるから成り立ちます。旅行者が知り合ったばかりの人に使えば、ただの悪口として受け取られます。
Q. 「子どもっぽいね」とやわらかく言いたいときは? A. 人に向けて言うこと自体を避けるのが一番ですが、どうしても言うなら trẻ con(チェ コン)のほうが、俗語の trẻ trâu より穏やかです。たとえば Đừng trẻ con thế.(ドゥン チェ コン テー) =「そんなに子どもっぽくしないで」。thế は北部寄りの文末詞で、南部では vậy になります。それでも相手を注意する言い方なので、目上の人には使えません。
Q. 北部と南部で意味は違う? A. 意味と使い方は全国共通です。違うのは発音で、南部は tr を舌をそらせて出すことと、ホイ声調の上下がはっきり出ることくらいです。
Q. 同じ時期によく聞く俗語はほかにある? A. 若い人の会話やSNSでは Toang もよく見かけます。意味と使い方は「Toang」の記事にまとめています。